ニッケル水素電池とは？｜仕組みと化学反応、リチウムイオンとの違い

「充電して繰り返し使える電池」といえば、何を思い浮かべますか？

多くの方が思い浮かべる「エネループ（eneloop）」などの充電池。

実はこれらが 「ニッケル水素電池」 と呼ばれるものです。

私たちの身近な家電から、ハイブリッドカーなどの自動車まで、ニッケル水素電池は驚くほど多くの場所で活躍しています。

この記事では、上記の内容をできるだけやさしく解説します。

ニッケル水素電池とは？仕組みと化学反応

まずはニッケル水素電池の基本について学んでいきましょう。

ニッケル水素電池（Ni-MH）とは

ニッケル水素電池（Ni-MH） とは、充電して繰り返し使える「二次電池」の一種です。

かつて主流だった「ニカド電池（ニッケルカドミウム電池）」の後継として登場し、次の理由により一気に普及しました。

• より大容量
• 環境負荷が小さい（カドミウム不使用）
• 安全性が高い

現在は以下の用途がメインで使用されています。

幅広い分野で使われているのが分かりますね。

電池の中で何が起きている？ざっくりイメージ

ニッケル水素電池の最大の特徴は、負極に水素吸蔵合金（すいそきゅうぞうごうきん） を使っていることです。

このようにイメージしてもらうと分かりやすいです。

電池の内部では、

• 水素イオン（H⁺）が正極と負極のあいだを行き来
• そのときに電子（e^－）が外部回路を流れる→ その電子の流れが「電流」として取り出される

という仕組みで動いています。

ニッケル水素電池の化学反応式

少し専門的になりますが、代表的な反応式は以下の通りです。

全体の反応

放電（電気を使うとき）と充電（電気を貯めるとき）の反応をまとめると、次の式の通りになります。放電時は右向き、充電時は右向き左向きの反応です。

NiOOH + MH ↔︎ Ni(OH)₂ + M

ここで登場する物質は以下の通りです。

• NiOOH：オキシ水酸化ニッケル（正極の充電状態）
• Ni(OH)₂：水酸化ニッケル（正極の放電状態）
• MH：水素を吸蔵した合金（負極の充電状態）
• M：水素吸蔵合金（負極の放電状態）

放電時（電気を使うとき）

マイナス極の合金から水素（H）が飛び出し、プラス極へ移動します。

このときに外部に流れる電子 ( e^－ ) が、私たちが使っている「電気」です。

充電時（電気を貯めるとき）

外部から電気エネルギーを加えて、放電の反応を逆向きに進めます。

つまり、

「水素が合金に出入りすることで、電気エネルギーを出し入れしている」

という、とてもクリーンで分かりやすい仕組みの電池なのです。

リチウムイオン電池・ニカド電池との違い

「スマホに入っている電池（リチウムイオン）」や「昔よく使われていたニカド電池」と、ニッケル水素電池は何が違うのでしょうか？

それぞれの特徴を比較表にまとめると、違いがイメージしやすくなります。

3種類の電池を比較

特徴	ニッケル水素電池	リチウムイオン電池	ニカド電池
主な用途	乾電池型充電池、HV車	スマホ、PC、EV車	電動工具（旧型）、非常灯
エネルギー密度	中くらい	非常に高い（軽いのに長持ち）	低い
公称電圧	約 1.2V	約 3.7V（パワーがある）	約 1.2V
安全性	高い（発火リスクが低い）	過充電などで発火リスクあり	高い
メモリー効果	あり（※1／弱い）	なし（継ぎ足し充電OK）	あり（顕著に出る）
環境負荷	低い（カドミウム不使用）	低い	高い（カドミウムは有害）

メモリー効果とは？

分かりやすく説明すると、メモリー効果とは電池を毎回使い切らずに継ぎ足し充電ばかりしていると、

「このあたりで電池が切れるものだ」

と電池が誤って“記憶”してしまい、本来より早い段階で電圧が下がってしまう現象です。

ニッケル水素電池にも メモリー効果はわずかにあります が、

• ニカド電池ほど深刻ではない
• 近年の製品（エネループ等）では構造・制御の改善でかなり軽減

されており、日常使用でそこまで神経質になる必要はありません。

ニカド？ ニッカド？？ カドニカ？？？

色んな本やサイトを見ていると、

• ニカド
• ニッカド
• カドニカ

と色々な呼び方があるのに気づくかもしれません。しかし、これらは全て同じニカド電池を指します。

ただし、「ニッカド」と「カドニカ」については、どちらも三洋電機（現パナソニックエナジー）の登録商標となっており、一般的にはニカド電池と呼ぶのがいいでしょう。

ニッケル水素電池のメリット・デメリット

導入を検討している方のために、具体的なメリット・デメリットを整理します。

ニッケル水素電池のメリット

安全性が高い

水系の電解液を使用しているため、リチウムイオン電池に比べて衝撃や熱に強く、発火や爆発のリスクが極めて低い のが特徴です。

そのため、

• トヨタ「プリウス」などのハイブリッド車
• 産業用機器
• 信頼性が重視される用途

で長く採用されています。

乾電池と互換性がある

単3や単4といった一般的な乾電池と同じサイズで作れるため、

• リモコン
• ワイヤレスマウス
• 子供のおもちゃ
• デジカメ

など、既存の「乾電池を入れる機器」でそのまま使えるのも大きな利点です。

環境にやさしい

ニカド電池と違い、有害物質であるカドミウムを含まない ため、環境負荷が低い電池です。

さらに、リサイクル体制が整っており、資源としても再利用できます。

パワー（瞬発力）がある

一度に大きな電流を流すのが得意なので、

• モーターを使う製品（ミニ四駆、電動おもちゃ）
• 電動工具
• カメラのストロボ

といった「瞬間的なパワーが必要な機器」に向いています。

ニッケル水素電池のデメリット

自己放電（自然放電）がある

使わずに置いておくだけでも、少しずつ電気が減ってしまいます。

昔のニッケル水素電池では、数ヶ月放置するとかなり容量が減るのが普通でした。

ただし、最新の低自己放電タイプ（エネループなど）では、数年放置しても使えるレベルまで改良 されています。

電圧が少し低い（約 1.2V）

アルカリ乾電池（約 1.5V）と比べると公称電圧が低いため、

• 一部の機器（高い電圧を要求するLEDライト・古い機器）では動作が不安定
• 満充電でも、機器側の「電池残量チェック」がシビアだと「すぐ電池切れ表示」が出てしまう

といったケースがあります。

寿命を延ばす！正しい充電・メンテナンス方法

ニッケル水素電池を長く使うためのポイントは、次の3つです。

基本は「継ぎ足し充電OK」、たまにリフレッシュ

メモリー効果はあるものの、

最新のニッケル水素電池は“普段使いなら継ぎ足し充電でOK” です。

ただし、

• 「最近、なんだか持ちが悪い」
• 「表示上の残量と実際の使用時間が合わない」

と感じたときは、

① 一度ほぼ使い切る → ② リフレッシュ機能付き充電器でフル充電

という リフレッシュ充電 を行うと、性能が改善することがあります。

過放電（深放電）を避ける

「使い切るのが良い」と聞くと、毎回ゼロになるまで使う方が良い と思ってしまいがちですが、これは逆効果です。

• 電池切れのまま何ヶ月も放置
• 完全に電圧が落ちた状態から長期間放置

といった「過放電状態」が続くと、内部の電極が劣化し、二度と充電できなくなる ことがあります。

使わない場合でも、半年に1回程度は充電してあげる

くらいの感覚で面倒を見てあげると、寿命が伸びます。

極端な温度を避ける

高温・低温は、電池にとって大敵です。

• 直射日光の当たる窓際
• 夏の車内
• 冬場の車内に放置

などは、電池温度が大きく変動し、劣化を早めてしまいます。

「人間が不快な環境は、電池にも悪い」

くらいのイメージで、極端な場所での保管を避けると安心です。

廃棄とリサイクル方法（重要）

ニッケル水素電池は「資源有効利用促進法」により、リサイクルが推奨・整備されている電池 です。

ニッケルやコバルトといった希少金属（レアメタル）が含まれており、

そのまま捨ててしまうのは「資源のムダ」でもあります。

さらに、誤った捨て方をすると、

• ゴミ収集車
• 清掃工場

での火災事故の原因にもなりかねません。

絶対にやってはいけないこと

• 燃えるゴミ・不燃ゴミにそのまま混ぜる
• 電極（プラス・マイナス）がむき出しのまま金属と一緒に捨てる

これは 絶対にNG です。

正しい捨て方の手順

① 端子をテープで絶縁する

• プラス極・マイナス極にセロハンテープやビニールテープを貼り、
• 金属部分を完全に覆ってショート（短絡）を防ぎます。

② 「リサイクル協力店」へ持ち込む

家電量販店やホームセンター、スーパーなどに設置されている

一般社団法人JBRCの公式サイトから、お近くの回収拠点を検索することもできます。

③ 液漏れ・膨らみがある場合は店員さんに相談

電池が膨らんでいたり、液漏れしている場合は、

ボックスにそのまま入れず、店員さんに直接渡して指示を仰ぎましょう。

よくある質問（FAQ）

まとめ：ニッケル水素電池は「安全性・パワー・環境性能」がそろった優等生

最後に、本記事のポイントを整理します。

正しい知識で使えば、家計にも地球にも優しい、心強いパートナーになってくれます。

他の電池についても知りたい方は、以下のリンクから探してみてくださいね。