全固体電池とは? 化学式で見る仕組みと「高性能」の理由

全固体電池とは? 化学式で見る仕組みと「高性能」の理由

ニュースで全固体電池ぜんこたいでんち)」という言葉をよく耳にしますよね。

「EV(電気自動車)の走行距離が劇的に伸びる」「数分で充電が終わる」

こんなふうに言われる、まさに夢の技術です。

でも、なぜ中身が「固体」になるだけで、そんなに性能が変わるのでしょうか?

今回はイメージ先行の解説ではなく、化学・物理の視点を使って、その実力と仕組みをやさしく解説します。

目次

そもそも「全固体電池」の定義と化学反応

まずは基本の構造と、そこで起きている化学反応から確認します。

実は、全固体電池は広い意味ではリチウムイオン電池」の一種です。そのため、基本原理は私たちが普段使っているスマホの電池と同じです。

電池の中で起きている化学反応

リチウムイオン電池(および全固体電池)では、充電と放電の際、正極と負極の間でリチウムイオン(Li+)が行ったり来たりしています。

リチウムイオン電池の反応式で表すと、一般的な材料(正極:コバルト酸リチウム、負極:黒鉛)の場合、以下のようになります。

正極での反応

右へ進むと「充電」、左へ戻ると「放電」

LiCoO2 ⇄ Li1−xCoO2 + xLi+ + xe

負極での反応

右へ進むと「充電」、左へ戻ると「放電」

6C + xLi+ + xe ⇄ LixC6

決定的な違いは「イオンの通り道」

この反応式に「電解質」は登場しません。電解質はあくまで、イオン(Li+)が移動するための「道路」の役割だからです。

従来のリチウムイオン電池

イオンの通り道は「有機溶媒(可燃性の液体)」です。セパレータという膜に液体が染み込んでいます。

全固体電池

イオンの通りがすべて「無機物の固体(セラミックスや硫化物)」に変わります。

反応式(原理)は同じでも、イオンが通る「道路」の材質が液体から固体に変わる。

たったそれだけの変化が、電池の性能を劇的に引き上げるのです。

全固体電池のメリット|「高性能」と言われる理由

では、なぜ「電解質」を固体にすると性能が上がるのでしょうか?

これには、大きく2つの物理的・化学的な理由があります。

メリット1. 【高出力化】電気抵抗が小さい

一つ目はイオン伝導率(イオンの動きやすさ)の話です。

「液体の中の方がスイスイ動けるのでは?」と思うかもしれません。しかし、従来の液体電解質の中では、リチウムイオンは溶媒分子に囲まれて拡散するため、動きにロスがありました。

一方、全固体電池に使われる特定の固体材料(超イオン伝導体など)は、内部が整然とした結晶構造になっています。

この結晶の隙間が「イオン専用のトンネル」のような役割を果たし、液体中よりもスムーズかつ高速にイオンが移動できる場合があります。

イオンが速く動けるということは、単位時間あたりにたくさんの電気を出し入れできるということ。

つまり、内部抵抗が下がり、大電流を流す「急速充電」が可能になるのです。

メリット2. 【高エネルギー密度】高電圧化が可能になる

二つ目のメリットは電圧が上げられることです。

従来の液体(有機溶媒)では、電解質は炭素を含む有機物なので、高い電圧をかけると化学的に分解したり、最悪の場合は発火したりする性質があります。

そのため、電圧の上限に限界がありました。

一方で全固体(無機物の結晶)の電解質では、石やセラミックスに近い無機材料なので、化学的に非常に安定しています。

そのため、高い電圧をかけても分解されにくい性質(広い電位窓)を持っています。

高い電圧に耐えられるということは、これまで使えなかった「ハイパワーな正極・負極材料」を採用できるということ。

結果として、同じサイズの電池により多くのエネルギーを詰め込む(エネルギー密度を高める)ことが可能になります。

安全性における決定的な違い

性能だけでなく、安全性も構造的に向上します。

従来の電解液は、ガソリンや灯油と同じく「燃えやすい有機物」でした。

しかし、全固体電池の電解質は「燃えない無機物」です。万が一の事故で衝撃が加わったり、ショートしたりしても、発火するリスクが極めて低くなります。

安全性が高いと、これまでEVに必須だった頑丈な防護カバーや冷却システムを簡素化できます。

車体を軽くしたり、浮いたスペースにもっと電池を積んだりできるため、車の性能アップにも直結するのです。

実用化に向けた課題:界面抵抗

ここまでメリットばかり話しましたが、実用化を阻む大きな壁もあります。

それが「界面抵抗(かいめんていこう)」の問題です。

液体なら、電極の表面がデコボコしていても、隙間なく入り込んで接触できます(濡れ性)。

しかし、固体同士をくっつけるのは大変です。硬いもの同士を合わせても、ミクロな視点で見れば点と点でしか接しておらず、隙間ができてしまいます

全固体電池の課題
  • 接触不良が起きやすい
  • 充放電で電極が膨張・収縮すると、接触面が剥がれてしまう

こうなると、イオンが移動できなくなります。

この「固体同士をいかに隙間なく、強力に密着させ続けるか」という物理的な課題に対し、世界中の研究者が解決策を探している最中です。

まとめ

全固体電池について、科学的な視点で解説しました。

  • 基本の化学反応式はリチウムイオン電池と同じ。
  • 電解質を有機液体から「無機固体」に変えることが最大のポイント。
  • その結果、「抵抗が下がる(急速充電)」「高電圧に耐える(大容量)」「燃えない(安全)」というメリットが生まれる。
  • ただし、「固体同士の接触(界面抵抗)」という課題がある。

全固体電池は、単なる「安全な電池」ではありません。

物理・化学の原理を応用して、電池のスペックそのものを底上げする次世代のキーテクノロジーなのです。

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