自動車のボンネットを開けると入っている、あの大きくて重い箱。「バッテリー」と呼ばれることが多いですが、正体は「鉛蓄電池(なまりちくでんち)」という電池です。
実はこの電池、発明されたのは1859年。なんと150年以上も前からある「電池の大先輩」なんです。
スマホなどで使われる最新の「リチウムイオン電池」があるにもかかわらず、なぜ鉛蓄電池はいまだに現役で使われ続けているのでしょうか?
今回は、高校化学でも習うくらい重要な「化学反応式」を使いながら、その仕組みと秘密をわかりやすく解説します。
鉛蓄電池(なまりちくでんち)とは?
鉛蓄電池は、「人類が初めて実用化した充電して繰り返し使える電池(二次電池)」です。
鉛蓄電池の材料
主な材料は、名前の通り金属の「鉛(Pb, なまり)」と、危険な液体として知られる「硫酸(H2SO4, りゅうさん)」。これらを組み合わせることで、電気を化学エネルギーとして蓄えています。
主にどんな場所で使われている?
最も身近なのは自動車やバイクのバッテリーです。エンジンの始動には「一瞬でドカンと大きな電気」が必要なのですが、鉛蓄電池はそのパワーを出すのが得意なんです。
他にも、病院やデータセンターの非常用電源や、工場で働くフォークリフトの動力源としても活躍しています。
【重要】鉛蓄電池の仕組みと化学反応式
では、いよいよ中身を見ていきましょう。
鉛蓄電池の中には、希硫酸(薄めた硫酸)が入った容器があり、その中に2種類の板が浸かっています。
登場する3つの主役「鉛・硫酸・硫酸鉛」
ここがポイントです!
電池の構成部品の基本、正極・負極・電解液は次の材料が使われています。
- 正極(プラス)
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酸化鉛(PbO2)の板(白色)
- 負極(マイナス)
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鉛(Pb)の板(灰色)
- 電解液
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希硫酸(H2SO4)
また、金属は硫酸で溶けてしまいますので、ケースにはプラスチック製のもの(PPが多い)が使われています。
全体の化学反応式
放電(電気を使うとき)と充電(電気を貯めるとき)の反応をまとめると、以下の式になります。
Pb + PbO2 + 2H2SO4⇄ 2PbSO4 + 2H2O
右向きの矢印(→):放電
左向きの矢印(←):充電
何が起きているの?(放電のとき)
この式を言葉で表すと、こうなります。
負極の『鉛』と正極の『酸化鉛』が、液体の『硫酸』を取り込んで、両方とも『硫酸鉛(白色)』に変身する。そのとき、ついでに『水』が生まれる
もう少し詳しく、電子(e−)の動きを見てみましょう。
- 正極での反応
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正極では外部の導線からやってきた電子を受け取り、酸化鉛(PbO₂)と硫酸が反応し、硫酸鉛が生成します。
PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e−
⟶ PbSO4 + H2O - 負極での反応
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負極では、鉛(Pb)が電子を放出して、硫酸イオンとくっつきます。
Pb + SO42− ⟶ PbSO4 + 2e−
ここで出た電子(e−)が導線を伝って正極へ走り、電流となります。
つまり、電気を使えば使うほど、両方の板は「硫酸鉛(PbSO₄)」という同じ物質になっていくのです。
反応式からわかる!電池が減ると「薄くなる」理由
さて、先ほどの全体の反応式の右側(生成物)をもう一度見てみましょう。
Pb + PbO2 + 2H2SO4⇄ 2PbSO4 + 2H2O
最後に水(H2O)できていますよね?
ここが非常に重要なポイントです。
放電すればするほど電解液の中の「硫酸(H2SO4)」が消費され、代わりに「水(H2O)」が増えていきます。
つまり、バッテリーを使えば使うほど、中の液体(希硫酸)は薄くなっていく(濃度が下がる)のです。
ガソリンスタンドなどでバッテリーの点検をするとき、液体の「比重(ひじゅう)」を測ることがあります。これは、液体がどれくらい薄まっているかを調べて、「ちゃんと充電されているか」を確認しているんですね。
- 比重が高い(濃い)= 元気な状態(充電バッチリ)
- 比重が低い(薄い)= 疲れている状態(要充電)
なぜ今でも現役?鉛蓄電池のメリット
リチウムイオン電池全盛の時代に、なぜ鉛蓄電池はなくならないのでしょうか?
メリット1. 圧倒的なコストパフォーマンス
リチウムなどのレアメタルを使わないため、非常に安く作れます。
自動車用バッテリーが数千円〜1万円程度で買えるのは、鉛のおかげです。
メリット2. 寒さに強くて力持ち
寒い冬でも性能が落ちにくく、エンジンをかけるための大電流を一瞬で流すことができます。
メリット3. リサイクルの優等生
鉛蓄電池は構造がシンプルで、回収システムも完成されています。
中身の鉛は溶かしてまた新しいバッテリーに使えるため、リサイクル率はほぼ100%に近い水準を誇ります。
鉛蓄電池の弱点は「重量」と「サルフェーション」
もちろん、良いことばかりではありません。
デメリット1. とにかく「重い」
鉛は金属の中でも特に重たい物質です。もしスマホのバッテリーを鉛蓄電池で作ったら、スマホだけで1kg以上の重さになってしまうでしょう。
だから、持ち運ぶ機器には使われないのです。
デメリット2. 放置厳禁!「サルフェーション」
バッテリーが上がった状態で長く放置すると、反応でできた硫酸鉛(PbSO4)が、硬い結晶に変化してしまいます。これを「サルフェーション」と呼びます。
放電時に発生する硫酸鉛が電極板に付着し、時間とともに硬く絶縁体化します。こうなると内部抵抗が大きくなり、充電不良や容量低下、劣化を引き起こし、バッテリー寿命の主な原因となります
一度こうなると、充電しても元の鉛に戻らなくなり、バッテリーの寿命が終わってしまいます。車を長期間乗らないときでも、たまにエンジンをかけたり充電したりする必要があるのは、このためです。
まとめ
- 鉛蓄電池は、鉛(Pb)と酸化鉛(PbO2)、希硫酸(H2SO4)の化学反応で電気を作る。
- 放電すると、両方の極板が硫酸鉛(PbSO4)になり、水ができて液が薄くなる。
- 重たいけれど、安くて大電流が出せるため、車のバッテリーとして今でも最強の座を守っている。
化学反応式を見ると難しそうに見えますが、「硫酸が板にくっついたり離れたりしているだけ」とイメージすると、少し親近感が湧きませんか?
次に車のボンネットを開ける機会があったら、「この中でイオンが頑張って動いているんだな」と思い出してみてくださいね。

